KAAT × Port B『ワーグナー・プロジェクト』
―「ニュルンベルクのマイスタージンガー」―
2017年10月20日(金)-  28日(土)
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
全9日間、各日15:00-21:00(時間内出入り自由)

HIPHOP x WAGNER = ???
『ワーグナー・プロジェクト』とは?

 

現実の都市空間でツアーパフォーマンスなどのプロジェクトを展開してきた高山明/Port Bが、約8年ぶりに劇場帰還を果たし挑むのは、楽劇王ワーグナー。芸術や都市の祝祭を更新しようとした歌合戦オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の「上演」に挑戦します。“ファシズム的な集中と求心の手法を確立した総合芸術家”と捉えられているワーグナーですが、ストリートを舞台にした「ニュルンベルクのマイスタージンガー」では、親方歌手=マスター・シンガーたちによる歌合戦が繰り広げられ、⺠衆による新たな歌や芸術が生まれる過程が描かれています。
本プロジェクトでは、⺠衆芸術として描かれた “歌合戦”を、現実のストリートで繰り広げられているラップに接続、劇場を現代の「歌い手」たちに解放し、歌・芸術・祝祭とは何かを問います。

ストリート化された劇場 は、初日に開催される「ワーグナー・クルー」公開オーディションを皮切りに、言葉が飛び交うサイファー空間となり、連日のスペシャルゲストライブ、グラフィティ、レクチャー、ワークショップ、MC バトルなどが同時多発的に展開します。これらはすべて鑑賞・参加自由。劇場への入退場も自由です。通常の舞台と客席にかえて、グラフィティ工房や DJ ブース、映像アーカイブ、ラジオスタジオ、プレスセンターなどが組み込まれた「お祭り広場」が構築され、巨大なインスタレー ションを歩きまわる感覚でお楽しみ頂けます。かつてないワーグナーの「上演」にご期待ください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワーグナー・プロジェクト 演出ノート

ワーグナー・プロジェクトは9日間の「学校」と銘打っているので、オーディションに通った人だけが参加できるキャンプのようなものと誤解されるかもしれないが、学校であると同時にワーグナーのオペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の「上演」であり、一般のお客さんにも鑑賞していただける公演である。
 
というのも、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は街で行われる町人たちの歌合戦のオペラ。歌の師匠(マイスタージンガー)にして歌合戦の審査員でもあるハンス・ザックス(ニュルンベルクに実在した人物)は、突然よそからやってきたヴァルターのルール無用の歌に衝撃を受けてしまう。優勝者は審査委員長の娘と結婚できることになっており、ザックスも優勝を狙っていたのだが、ヴァルターの歌を聴いて出場を取りやめる。代わりに、ルールも知らなければ洗練もされていないと馬鹿にされるヴァルターに、歌と詩の作法を教え、新しい芸術の可能性をこのよそ者に託そうと決意する。ザックスには靴職人という側面もあるので、歌の作り方と靴の作り方が絡められ、弟子たちに伝授される場面もあれば、歌とはなにか、芸術とはなにか、価値観を揺さぶられたザックスが自問したり、他の審査員たちと議論したりする場面もある。そして最後の場面はニュルンベルク郊外の広場で開かれる歌合戦。ヴァルターが見事優勝する。民衆は、ヴァルターを認め、指導し、引き上げたことで歌や芸術に革新をもたらしたハンス・ザックスを英雄と称え、「ハイル・ザックス!」というコーラスとともにオペラは幕を閉じる。
 
ニュルンベルクの広場においてフォルク(民衆・国民・民族)がつくられたわけだが、我こそはハンス・ザックスだと思いながらワーグナーはこのオペラを書いたに違いない。今でこそ神のようなワーグナーだけれど、当時はその革新性ゆえに罵倒されることも多かった。そして人並みに傷ついていたらしい。ワーグナーがこのオペラをつくった背後には、イエスに洗礼を施した聖ヨハネ、宗教改革を成し遂げたルター、ルターを歌で讃え、宗教改革を推し進めたハンス・ザックス、そしてオペラどころか芸術に総合的な革命を起こした自分、という流れが欲望されているように思う。実際、このオペラの中でザックスは聖ヨハネに喩えられ、オペラが始まって終わるまでの時間は聖ヨハネ祭が行われている10日間という設定である。宗教的な祝祭が芸術の祝祭になり、さらに都市の祝祭へと変容し、フォルクが形成されるという物語。
 
このオペラの初演から65年後、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を愛して止まないヒットラーは、ニュルンベルクを「帝国党大会の都市」と宣言し、郊外のツェッペリン広場で党大会を実施する。そこで党がつくられ、フォルク(民族・国民)がつくられた。オペラを現実にしてしまったわけだ。まるで国作りの神話のようだけど、これは史実。そして今の日本にも無縁な話ではないと僕は考えている。
 
それで「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を上演したいと思った。やるなら徹底して脱神話化する方向でやらないといけない。公演場所も東京ではなく隣町の横浜で。街の歌合戦のオペラなのだから、「ストリートのオペラ」であるヒップホップに接続し、オペラを表象する代わりにオペラを現実化してしまう。「学校」として、異なる人が集まる「コミュニティ」として。初日がオーディションだから誰が残るか分からないが、連日あるレクチャー、ワークショップ、サイファー、MCバトル、ラジオ放送、ライブ・・・etcに触れてもらうことを通して、「弟子」たちは新しい可能性を開いていき、教える側の価値観もまた揺さぶられていく。舞台上に見世物をつくることをやめ、その場で生成されていくものに賭ける。そして最終日は「パーティー」だ。人が集まり、歌い、訴え、ホストとゲストが入れ替わり、そこにかりそめの「党」やフォルク(民衆)が出現する(かも知れない)。そんなの演劇じゃないという批判を受けそうだが、劇場って本来そういう場なのではないのだろうか?しかも神奈川芸術劇場は公立劇場である。毒にもなれば薬にもなる劇場の可能性をそこで問いなおしたい。
 
最終日が終わったら解散する「パーティー」だけど、幸か不幸か、ぼくらの「祝祭」は9日間で、本来の聖ヨハネ祭/『ニュルンベルクのマイスタージンガー』からすると一日足りない。でもその方がかえっていいかなと思っている。「ハイルXXX」という言葉で統合される祝祭なんて真っ平御免だし、パーティーは街のなかでも続けられるのだ。
 
というわけで、ワーグナー・プロジェクトは『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の9日間の上演です。一人でも多くの皆さんにお立会いいただけたらうれしいです。
 
高山明

 

 

 

STAFF

構成・演出:高山明

出演:ワーグナー・クルー
講師:桂英史 / Kダブシャイン / GOMESS / 斉藤斎藤 / サイプレス上野とロベルト吉野 / 柴田聡子 / 管啓次郎 /
瀬尾夏美 / ダースレイダー / NillNico / ベーソンズ / 山田亮太 / 山下陽光 / 吉田雅史 (五十音順)
特別出演:磯崎新

音楽監督:荏開津広
空間構成:小林恵吾
グラフィティ:snipe1

演出助手:田中沙季
照明ディレクター:高田政義(RYU Inc.)
音響ディレクター:稲荷森健
メディアディレクター:和田信太郎
舞台監督:清水義幸(カフンタ)
技術監督:堀内真人(KAAT)

照明:杉本成也(RYU Inc.)
劇場照明:佐藤綾香(KAAT)
劇場音響:西田祐子(KAAT)
機構:鈴木勇生(KAAT)
演出助手補:菅谷雪乃

メディアクルー:阿部真理亜、磯崎未菜、今井新、斎藤大幹、佐藤朋子、佐藤未来、新谷聡子、高見澤俊介、李和晋
会場構成クルー:畑江輝、舟橋翔太、吉村環紀、森澤碧人、北岡航
受付:田中里奈、藤井さゆり、山本ちあき 受付補:芝田遥、高橋大斗、山口敦子、裴潤心

フライヤーデザイン:米山菜津子
ウェブサイト構築:元永二朗
グッズデザイン:西野正将

企画アドバイザー:柴原聡子
制作協力:戸田史子
制作:小沼知子(KAAT)、及位友美(voids)
制作統括:横山歩(KAAT)

芸術監督:白井晃(KAAT)

協力:東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻、東京藝術大学 芸術情報センター(AMC)、早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻小林恵吾研究室、MONTANA COLORS JP、コ本や honkbooks

Special Thanks:上野ポエトリカンジャム、カレーの店ピー、アリババケバブ、飯田橋サイファー、川崎サイファー、戸塚サイファー、下北沢サイファー、新橋サイファー、中野サイファー、府中サイファー、MCバトル練習会ゆうまーるBP

助成:平成29年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
企画・製作:Port B、KAAT神奈川芸術劇場
主催:KAAT神奈川芸術劇場